退去費用で払わなくていいものは?払えない場合の対処法も解説

賃貸物件から退去する際、請求された退去費用が高額で戸惑ってしまう人も多いのではないでしょうか。

「こまめに掃除して、きれいに使っていたはずなのに、どうして高いの?」
「金額に納得がいかないから、払いたくない」
「新居の準備にお金がかかり、退去費用が高すぎると払うのが難しい」

上記のように考える方もいるでしょう。

結論から言いますと、退去費用として請求された金額の中にも、支払わなくてよい費用が含まれている可能性はあります。

一般的に「経年劣化」「通常損耗」などの原状回復は、貸主(大家さん)が負担するものだからですね。

ただし「借主(入居者)の使い方が悪くてできた傷の原状回復費用」「契約・特約で定められている費用」については、借主負担です。

この記事では「退去費用の相場」や「支払わなくていい退去費用」について解説します。

また「退去費用の金額に納得できない際の対処法」「退去費用が払えないときにできること」についても紹介します。

最後まで読んでいただければ、退去費用について悩みが軽くなるはずです。

退去費用とは?いつまでに支払う必要がある?

「退去費用とはどんな費用か」「退去費用の支払い期限はいつか」について解説します。

退去費用とは賃貸物件の原状回復費用

退去費用とは「賃貸物件の原状回復費用」です。

賃貸物件では入居者が退去したあと、次の入居者が住めるように故障部分を修理したり、傷・汚れをクリーニングしたりする必要があります。

大家さん・管理会社がリフォーム業者等に依頼して行う原状回復工事について、入居者が一部費用を負担することになります。

「大家さん・管理会社が退去費用を請求すること自体はルール違反ではなく、正当な費用なら入居者は支払い義務がある」と考えてください。

退去費用の支払い期限

退去費用の支払い期限は、たいてい退去から約1ヵ月後となります。

退去立ち会いで部屋の状況を確認してから必要な費用が決まるため、退去日にいきなり退去費用を支払うことはありません。

新住所に請求書が届き、期日までに指定された口座へ振り込む流れとなります。

なお退去費用が安く、預けていた敷金だけでカバーできた場合には、約1カ月後に残りの敷金(余った敷金)が返金されます。

1ヵ月くらい経っても退去費用の請求がない場合は、「敷金だけでカバーできた」と考えてよいでしょう。

なお請求も返金連絡もない場合は、大家さん・管理会社が返金手続きを忘れている・怠っている可能性があります。

退去から1ヶ月くらい経っても請求も返金もない場合は、大家さん・管理会社に連絡して、「退去費用がどうなったのか」「敷金の返金はあるのか」と聞いてみましょう。

退去費用の相場

「退去費用の相場」と「退去費用が高額になる場合」について解説します。

退去費用の相場は「敷金+50,000円〜90,000円程度」

退去費用の相場は、「敷金+50,000円〜90,000円程度」です。

金額に幅があるのは、広さによって費用が異なるからですね。

部屋が広いほど、退去費用は高くなります。

また以下のような場合には、消臭や傷の修繕が必要なので、退去費用が高額になりがちです。

  • ペットを飼育していた
  • 室内で喫煙していた
  • 掃除をサボってカビや汚れが残った
  • 床や壁に物をぶつけて傷ができた
  • 大家さん・管理会社の許可を得ず「壁への穴あけ」「棚のとりつけ」などのDIYをした
  • ネット回線(光回線)を引き込むときに、許可を得ず外壁に穴を開けたりビスを止めたりした

退去費用をできるだけ安くするためには、「掃除をこまめにする」「家具・家電を運び込むときに、壁・床に傷をつけないよう注意する」といった心がけが必要です。

また入居時に敷金がない物件の場合、初期費用が安く済む一方、退去時に支払う費用は高額になる可能性があるので注意しましょう。

退去費用で払わなくていいものは?

退去費用のうち、以下の費用は一般的に支払う必要がありません。

  • 経年劣化・通常損耗部分の修繕費用
  • 入居時からあった傷・汚れの修繕費用

経年劣化・通常損耗部分の修繕費用については払わなくていい

経年劣化・通常損耗とは…

年月の経過によって発生する劣化や、通常の生活をしていて発生する傷・汚れのこと。

経年劣化・通常損耗部分の修繕費用については、一般的に借主(入居者)負担ではなく、貸主(大家さん)負担になります。

「原状回復」とは入居開始時の状態に戻すものではなく、「経年劣化・通常損耗範囲外の損耗・毀損を復旧すること」だからですね。

また国土交通省のガイドラインでも、「経年劣化・通常損耗の修繕費用は家賃に含まれており、貸主負担が妥当」と考えられています。

貸主側の負担となる費用(経年劣化・通常損耗と考えられるもの)の例を紹介します。

  • 畳・壁紙の日焼け
  • 冷蔵庫・TV裏にできた電気ヤケ
  • 画びょう・ピンによる穴
  • エアコン設置のためのビス穴・跡
  • 耐用年数経過による設備故障
  • フローリングのワックスがけ
  • 家具の重みによる床・カーペットの凹み
  • 自然災害で割れた窓ガラス

ただしガイドラインには、法的な強制力がありません。

そのため賃貸借契約書に特約がある場合は、ガイドラインでは「貸主負担」となっていても、特約が優先されて借主負担になることがあります。

「えっ、この費用が借主負担なの?」と驚かないように、契約締結時には退去費用・原状回復費用に関する項目をしっかり確認しておきましょう。

入居時からあった傷・汚れの修繕費用も払わなくていい

入居時からあった傷・汚れの修繕費用も、払う必要はありません。

あなたがつけた傷・汚れではないからですね。

実は退去費用をめぐるトラブルでは、「入居時からあった傷の修繕費用を請求された」という体験談はとても多いです。

退去時のトラブルを防ぐため、入居時に「傷・汚れのチェックシート」を渡してくれる管理会社もあります。

新しく賃貸住宅に住む際は、チェックシートに従って引っ越しの荷物を運び入れる前に部屋の状態をチェックしましょう。

チェックシート記入と合わせ、傷・汚れ部分の写真を撮っておくと「元々あった傷・汚れだ」という強力な証拠になります。

退去費用を払わないままでいるとどうなる?

退去費用を払わないままでいると、以下のような流れで事態が悪化していきます。

  1. 大家さん・管理会社から督促の連絡が入る
  2. 保証会社が代位弁済する
  3. 裁判に発展する

大家さん・管理会社から督促の連絡が入る

退去費用を支払わないままでいると、まずは大家さん・管理会社から督促の連絡が入ります。

つまり「退去費用を払ってくださいよ」という連絡ですね。

大家さん・管理会社としては何とか退去費用を払ってほしいので、本人に連絡してくるのは当然です。

「お金が用意できない」「退去費用に納得できないから払いたくない」という場合でも、督促連絡を無視するのはやめてください。

無視はせず、「退去費用が高すぎてすぐにお金を用意できないので、支払い期日を伸ばしてほしい」「金額や内訳に納得できないので、専門家に相談する」などと伝えましょう。

保証会社が代位弁済する

最近では賃貸物件の入居時に、保証会社に加入するケースがほとんどです。

保証会社に加入している場合、退去者が退去費用の督促に応じず支払いを拒んでいると、保証会社が代位弁済(立て替え払い)を行います。

保証会社は家賃だけではなく、原状回復費用も保証してくれるからです。

あくまで立て替えですので、保証会社が支払った分は、保証会社から退去者へ請求されます。

さらに保証会社からの請求には「手数料」や「遅延損害金(退去費用の支払いが遅れた分のペナルティ)」も含まれます。

保証会社が代位弁済すると、退去者の負担金額が増えてしまうのですね。

なお保証会社に加入せず連帯保証人を立てて入居した場合には、連帯保証人に請求が行くことになります。

裁判に発展する

「代位返済後に保証会社から請求に応じない場合」や「連帯保証人が請求に応じない場合」などは、裁判に発展する可能性があります。

督促に応じない退去者に対し、より強制力のある手続きに出るのですね。

もちろん裁判になって、「不当に高すぎた退去費用が、適切な金額で決着する」というケースもあります。

一方大家さん・管理会社側の主張が正当な場合には退去者側に不利ですし、信用情報に傷がつくことも。

裁判にまでなると、「払いたいけど、高いから払えない」という訴えにも応じてもらいにくくなります。

いずれにしても裁判になると負担が大きいので、訴えられる前に何らかの方法で解決するほうがよいでしょう。

退去費用を払えない場合の対処法

退去費用を払えない場合の対処法について、「退去費用に納得できない場合」と「お金が足りなくて払えない場合」にわけて紹介します。

退去費用に納得できない場合 ・「賃貸借契約書」と「国交省のガイドライン」を確認する
・大家さん・管理会社と金額について交渉する
・消費者生活センターに相談する
・弁護士・司法書士などに相談し、法的手続きをとる
退去費用に納得はできるが払えない場合 ・分割払いをお願いする
・お金を借りる
・副業・アルバイトする

「賃貸借契約書」と「国交省のガイドライン」を確認する

「退去費用が高すぎて、とても納得できない!」と感じたら、まずは賃貸借契約書と国交省のガイドラインを確認しましょう。

国交省のガイドラインで「貸主負担が適当」となっている費用が内訳に含まれていれば、大家さん・管理会社と交渉できる可能性があるからです。

ただし賃貸借契約書に退去費用に関する特約がある場合は、ガイドラインにある「入居者の原状回復義務」の範囲を超えて、費用を請求されることがあります。

例えば「退去時には定額で○万円を請求する」「クリーニング費用を入居者が負担」などと決まっている物件などがあるようです。

つまりガイドラインで「貸主負担が適当」とされている項目でも、契約書の内容によっては支払いを拒否できないのですね。

まずはガイドラインと契約書を確認し、交渉の余地があるかどうか探ってみましょう。

大家さん・管理会社と金額について交渉する

契約書とガイドラインを確認して、「支払わなくてもいい費用が含まれている」と判断したら、大家さん・管理会社と退去費用の金額について交渉してみましょう。

ガイドラインを示すことで、減額交渉に応じてくれる大家さん・管理会社もあるからです。

ただし大家さん・管理会社のスタッフに対して、感情的に「高すぎる!」と怒りをぶつけると、交渉がこじれてしまう可能性も。

「国交省のガイドラインとは違うようです」と、気になる箇所を冷静かつ明確に指摘してください。

また入居当時からあった傷について修繕費用を請求された場合は、入居時チェックシートや入居時の写真を提示して交渉しましょう。

消費生活センターに相談する

大家さん・管理会社との交渉がうまく進まなかった場合、消費生活センター(消費者ホットライン)に相談してみましょう。

消費生活センターの窓口は、各自治体の市役所内などに設けられています。

消費生活センターでは、「退去費用」「賃貸物件の原状回復トラブル」についての相談に無料で応じてくれます。

相談員から的確なアドバイス・サポートをもらえますし、相談することで不安な気持ちが落ち着く効果もあるでしょう。

また悪質なことをしている自覚のある不動産業者であれば、「消費生活センターに相談する」と伝えるだけで、態度が軟化する可能性も。

大家さん・管理会社との直接交渉が難しい場合は、消費生活センター(消費者ホットライン、局番なし188)に相談してみてください。

弁護士・司法書士などに相談し、法的手続きをとる

大家さん・管理会社が交渉に応じず、消費生活センターに相談しても解決できない場合には、弁護士・司法書士などに相談し、法的手続きをとる方法もあります。

民事調停や裁判で決着をつけるためですね。

民事調停とは…

裁判所が当事者の間に入って話し合いを行うことで、問題解決をはかる手段。かかる費用は裁判より少なくなる。

ちなみに民事調停は裁判ではなく、「自分でもできる」と言われることが多いです。

確かに自分でもできるのですが、「的確な書類作成」「スムーズな話し合い」のためには、弁護士・認定司法書士に依頼したほうがよいでしょう。

分割払いをお願いする

退去費用は、通常一括払いです。

しかし「すぐにまとまったお金を用意するのが難しい」という方もいます。

一括払いが難しい場合には、大家さん・管理会社に対して「分割払いで支払えないだろうか」とお願いしてみましょう。

「支払いたい気持ちはある」「分割なら支払える」と伝えることで、分割払いに応じてくれる大家さん・管理会社もあるからです。

「まったく退去費用が払われないより、少しずつでも回収できた方がいい」と考える大家さん・管理会社もあるからですね。

あらかじめ「応じてくれない大家さん・管理会社もいる」と認識したうえで交渉しましょう。

お金を借りる

分割払いに応じてもらえない場合には、お金を借りる方法があります。

お金を借りれば、すぐに退去費用を準備できます。

お金を借りる方法(相手)の例は、以下の通りです。

  • カードローン
  • クレジットカードのキャッシング
  • 親族・知人
  • 公的融資制度

カードローンやキャッシングは手軽で早く借りられますが、利息が高いのはデメリット。

そのため家族・友人に頼れるなら、親しい人に頼むのがおすすめです。

親しい人から借りる場合も、「借用書をつくる」「返済日を決める」など、トラブル防止のために記録を残しておきましょう。

副業・アルバイトする

お金を用意する方法としては、「副業・アルバイト」もあります。

借金のように返済義務がないため、時間・体力があるならおすすめの方法です。

週末だけスポットで働ける仕事もありますし、在宅でできる仕事もあります。

退去費用だけではなく生活費の足しにできる可能性もあるので、余裕がある方は副業を検討してみましょう。

まとめ

退去費用は、入居者が当然支払うべきお金です。

「高いから」「払えないから」という理由だけで支払いを拒み続けると、裁判を起こされてしまう可能性があります。

支払いが難しい場合も、大家さん・管理会社とは連絡をとり、「分割払いをお願いしたい」「副業でお金を用意するので、支払い期日の延長をお願いできないか」などと伝え、話し合いましょう。

また「請求が不当」「管理会社が悪質」と感じる場合は、国交省のガイドラインと契約書を確認したうえで、消費生活センターなどに相談してみてください。